- 5月 1, 2026
不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が保険適用へ
「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)」が、2026年6月より保険適用となります。薬物療法中心だった不眠症治療において、その位置づけはどう変わるのか。背景と制度のポイントを整理します。
4~5人に1人が睡眠の問題を抱えている
不眠症に対する認知行動療法が保険適用となった背景には、まず、慢性的な不眠に悩まされている人が多いという問題があります。
令和元年(2019年)国民健康・栄養調査報告によると、成人男女の21.8%が睡眠の質に不満を抱いており、34.8%が日中に眠気を感じています。
日本では、成人の4~5人に1人が何らかの不眠を自覚している、といわれています。
なおかつ、不眠は、仕事のパフォーマンス低下や事故リスク、うつなどにもつながります。日本経済新聞によると、不眠による日本の経済損失は18兆円にも上るそうです(※1)。
つまり、不眠は、個人の問題だけではなく、社会的問題なのです。
欧米では不眠治療の第一選択が認知行動療法
日本では、不眠症に対する治療として睡眠薬が広く用いられてきました。厚生労働省の「e-ヘルスネット」にも、「現在の不眠治療は、睡眠薬を用いた薬物療法が中心です」と書かれています(※2)。
一方、米国内科学会や欧州睡眠学会など、欧米のガイドラインでは、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:CBT-I)が、不眠治療の第一選択に位置づけられています。
「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)」とは?
不眠症に対する認知行動療法は、『不眠症に対する認知行動療法マニュアル 改訂版』によると、「不眠症の発症・維持要因を行動理論と認知理論に基づいて解消することを目的とした治療法」とされています。
不眠につながる不適切な振る舞いや考え方、からだの状態に焦点を当てて、主に対面式の面接(個人セッションや集団セッション)で治療を進めていきます。
つまり、眠れなくなる「クセ」や「思い込み」を整え、眠れる状態に立て直していく治療です。
不眠症に対して認知行動療法が“効く”ことは、この数十年でかなりエビデンスが積み重ねられてきました。
薬物療法のみよりも認知行動療法のみ、または併用したほうが有効であること、1回50分4~6回のセッションで不眠症が改善すること、効果のばらつきが少ないこと、精神疾患や身体疾患を併せ持つ不眠症にも有効性が高いこと、減薬、再発予防効果があること――。
こうした点が、多くの研究で明らかになっています(※3)。
保険診療の対象となるのは?
こうしたことを背景に、今回の診療報酬改定では、不眠症に対する認知行動療法が保険適用となりました。
ただし、不眠を訴える患者さんのすべてが対象となるわけではありません。対象となるのは、うつ病や不安障害が合併した不眠症の患者さん、または、2種類以上の睡眠薬を投与した上で治療効果が不十分であると医師が判断した患者さんです。
現時点では、主に重症例や薬物療法では効果が不十分な症例が対象とされています。
診療報酬点数は、以下のように設定されています。
- 医師による場合 480点
- 医師及び看護師が共同して行う場合 350点
- 公認心理師による心理支援を伴う場合 330点
30分を超える治療・面接が行われた場合に、8回まで算定することができます。
2026年度診療報酬改定で変わったこと
これまで「認知療法・認知行動療法」の対象は、うつ病などの気分障害、強迫性障害、社交不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経性過食症でしたが、さらに不眠症が加わりました。
また、従来は、医師が行う場合と、医師と看護師が共同して行う場合の2パターンしか認められていませんでしたが、今回の改定で、公認心理師による心理支援も認められるようになりました。
さらに、これまでは、医師と看護師が共同で行う場合には、看護師による面接(30分以上)のあと、医師が患者と5分以上の面接を毎回行わなければいけないというルールがありましたが、これは撤廃されました。
不眠症に対する認知行動療法の広がりに期待
保険適用にさきがけて、日本睡眠学会が『不眠症に対する認知行動療法マニュアル』の改訂版を出しています。不眠症に対する認知行動療法とはどのようなものなのか、どのように進めればいいのか、導入セッションから終結までの6つのセッション沿って、具体的な会話例も交えながら紹介されています。
また、海外では、不眠症に対する認知行動療法のアプリが医療機器として利用され、効果も報告されています。日本でも、まだ保険適用はされていないものの、サスメド株式会社の不眠治療用アプリ「Medcle(メドクル)」がプログラム医療機器として承認を受けています。
これまで、不眠症治療としての認知行動療法は、一部の医療機関で自由診療として行われてきました。実施可能な医療機関や人材の不足が普及の課題となるものの、今回の保険適用によって、睡眠薬以外の治療の選択肢として広がっていくことが期待されています。
◎参考
日本睡眠学会教育委員会編『不眠症に対する認知行動療法マニュアル 改訂版』金剛出版
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
日本経済新聞「不眠大国ニッポン、損失は18兆円 眠りの質を高める8選」2024年7月22日
厚生労働省「e-ヘルスネット」不眠症
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-001
厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について「個別改定項目について」