- 8月 1, 2026
- 8月 3, 2026
クリニックにおけるBCP――診療所の業務継続計画の考え方
熊本県で最大震度7の強い地震がありました。2011年の東日本大震災以降、日本では毎年のように各地で震度6以上の地震が起きています。
そうしたなか、BCP(事業継続計画)の必要性が年々増しています。今年度の診療報酬改定では、診療所(クリニック)や200床未満の病院のかかりつけ医機能を評価する「機能強化加算」の要件として、BCPの策定等が新たに加わりました。
これは、大きな病院だけではなく、「診療所においてもBCPは必要」という国からのメッセージともいえるかもしれません。
では、診療所におけるBCPはどのように考えればいいのでしょうか。
「BCP」とは?
BCPは、「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「業務継続計画」です。
防災は、災害に備えて被害を軽減するための策を講じること。対してBCPは、従来の防災に加えて、被災しても重要な事業を継続するために、そして、たとえ中断した場合でもできるだけ早期に再開できるようにするための取り組みです。
また、災害対応マニュアルは、地震、水害、感染症といったリスクごとに対応をマニュアル化したものなのに対し、BCPは、全災害対応型(オールハザード)のアプローチです。原因が何であれ、業務が中断しそうな状況、中断してしまった状況といった「被害の結果」に焦点を当て、業務を継続する方法を整理するものです。
BCP策定の4つのステップ
厚生労働省が公開している「令和6年度BCP策定手順と見直しのポイント(策定編)」では、策定の流れを次の4つのステップで紹介しています。
1:業務継続の「方針」を立てる
2:被害を「想定」する
3:優先業務を「整理」する
4:「対策」を考える
ステップ①「方針」を立てる
この「方針」は、非常時に、新たな事態や想定外の事態に対応する際にも判断基準となるものです。
基本方針を考えるにあたっては、BCPを策定する目的(めざすこと、実現したい状態)や、自院の理念、地域の地理的特性、地域の災害経験などを振り返りましょう。
厚生労働省の「BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編」では、一例として、次のような基本方針を紹介しています。
1)職員のいのちと安全を最優先にする
2)患者のいのちと生活を守る医療提供を途切れさせない
3)地域住民の助けとなる
4)職員の権利と意思を尊重する
ステップ②被害を「想定」する
自院で起こり得る災害や事故を洗い出し、それによって診療にどのような影響が出るかを考えます。地震、水害、停電、断水、感染症、さらにはサーバー攻撃なども想定するといいでしょう。
その結果、起こる影響としては、「電子カルテが使えない」「スタッフが出勤できない」「スタッフが帰宅困難になる」「医薬品が届かない」「トイレ、手洗いが使えない」といったことが考えられます。
また、院内の「ハザードマップ」を作成しておくことも有用です。
診療所の図面上に、ガラスが割れてケガをする危険がある場所、出火の可能性が高い場所、棚の落下が危険な場所などの印をつけます。また、消火器や非常用持ち出し袋の置き場所、安全なエリアについても印をつけます。
この院内ハザードマップを作成することで、出火の可能性のある場所に燃えやすいものが置かれていないか、待合室のイスの位置は安全か、患者さんをどこに誘導すればいいかなど、改善策・対策まで考えられます。
ステップ③非常時の優先業務を整理する
災害時の応急業務と継続すべき通常業務を選定します。
応急業務については、初期消火担当、救護担当、情報連絡担当、避難誘導担当と、役割を決めておきましょう。その際、出勤できない人がいたり、休みの人がいたりしても滞りなく動けるよう、あらかじめ複数のスタッフを割り当てておく、あるいは代行者を決めておくことも大事です。
また、診療所の通常業務の選定について、「BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編」では、①有事であっても優先すべき業務は何か、②業務内容を縮小・変更できる業務は何か、③優先度が低く一時的に休止可能な業務は何か――と、優先順位に応じて3段階に分類する方法が紹介されています。
ステップ④「対策」を考える
業務を継続するために、すべき行動・実施すべき業務(ステップ③)と想定される被害(ステップ②)のギャップを埋める対策を考えます。
たとえば、通院患者さんへの医療提供が途切れないように診療を再開するために、電子カルテを使えない場合の対策案として、手書きでの運用を決めておく、というのもその一つです。
また、トイレが利用できないときのために、携帯用トイレや、水洗トイレにかぶせて使うゴミ袋と凝固剤を用意しておくなど、備蓄品の管理も重要な対策です。
ほかにも、家具の固定や非常用電源などの設備の充実、他院との協力や院内連絡網などの連携体制の整備、近隣の避難所までのルートの確認、有事を想定した訓練など、対策は多岐にわたります。
BCPは更新するもの
BCPは、一度作って終わりではありません。対策を実際に準備し、訓練を通じて機能するかを確認し、診療所や地域の状況に合わせて更新していくものです。
今回の診療報酬改定でも、機能強化加算の要件として追加されたのは、BCPの策定だけではありません。策定したBCPに従って必要な措置を講じること、そして定期的にBCPの見直しを行い、必要に応じて計画の変更を行うこと――までが要件となっています。
現状、診療所においてBCPの策定は、努力義務にとどまっています。しかしながら、加算を算定するか否かに限らず、災害時にも地域住民を支えられる診療所であるために、スタッフの皆さんが落ち着いて対応できるようにするために、BCPは、診療所にとって必要な備えといえます。
◎参考
厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について「個別改定項目について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
厚生労働省「BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編」
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001112938.pdf
厚生労働省「医療施設の災害対応のための事業継続計画(BCP)」